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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)11510号 判決 1981年4月27日

原告 野島弘光

右訴訟代理人弁護士 小幡良三

被告 東京証券取引所

右代表者理事長 谷村裕

被告 大阪証券取引所

右代表者理事長 松井直行

右被告両名訴訟代理人弁護士 村松俊夫

同 圓山田作

同 圓山雅也

同 小木郁哉

同 町田宗男

主文

一  原告の請求を、いずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、連帯して、原告に対し、金二四二万九〇〇〇円及びこれに対する、被告東京証券取引所は昭和五二年一月一三日から、被告大阪証券取引所は同月一四日から、いずれも各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者等

(一) 原告は、一般投資家の中の一人である。

(二) 被告らは、いずれも、証券取引法八〇条以下の規定により、有価証券の売買取引を行うために必要な有価証券市場の開設、及びこれに関する公正な取引を確保し、併せて投資者を保護することを目的として設立された会員組織の特殊法人であり、証券会社でなければこれを設立することができないとされているものである。

(三) 訴外山一証券株式会社及び日興証券株式会社(以下右両者をあわせて「訴外両証券会社」という。)は、それぞれ証券業を営む会社であり、被告らの有力会員業者であるとともに、訴外三菱地所株式会社(以下「三菱地所」という。)のいわゆる幹事証券会社である。

(四) 三菱地所は、不動産の賃貸・管理等を営む会社であって、被告らの開設する有価証券市場の第一部に上場の優良会社である。

2  訴外両証券会社による三菱地所株式の相場操縦

訴外両証券会社は、昭和四七年七月ころから同四八年一月ころまでの間、三菱地所の幹事証券会社及び元引受証券業者として、同年一月に行われた三菱地所株式(以下「本件株式」という。)五〇〇〇万株のいわゆる時価発行増資(以下「本件時価発行」という。)の発行価額を有利にするため、東京、大阪の両有価証券市場(以下それぞれ「東京市場」、「大阪市場という。)において、後記(二)のとおり、いわゆる有力地場新聞を使って本件株式につき、投資ないし投機価値を高めるため誇大宣伝的推奨記事を掲載させ、あるいは本件株式に人気が集中していると見せかけるために仮装売買、馴合売買をなして取引量を増大させると共に、自ら大量の買い手口を振って高値を買い上る等し、本件株式について証券取引法一二五条違反の相場操縦を行った。そして右相場操縦の存在は、以下の各事情によって明らかである。

(一) 本件時価発行の発行価額決定日を中心とする本件株式の不自然な動向

株価は、自然の需給関係によって形成され、特別の理由(独自の材料)がない限り、同一業種、同一規模、同一格の会社の株価は同じように変動するのが通常であり、このことは、取引界の常識である。

ところが本件株式は、東京市場において以下のとおり、昭和四七年七月ころから三菱地所が本件時価発行を実施した翌四八年一月にかけて、同一規模、同一格の訴外三井不動産株式会社(以下「三井不動産」という。)の株式あるいは同業他社の株式に比し、不自然に(概ね対照的活況を示して)その株価が変動した。

(1) 昭和四七年七月二五日より同年九月一四日の間の株価と取引高について

右の四五取引日間において、本件株式の株価は、三四七円より四九八円にまで一気に一五一円(四八パーセント)急騰し、取引高も一日平均四〇七万余株にのぼった。これは、直前の四五取引日に比し、値幅は七・五倍増、取引高は三・四増となっているのである。

この間、同業で同格の三井不動産株式の株価は、一五九円(二六パーセント)上昇したが、これは直前四五取引日に比し、値幅は一五・九倍、取引高は三・一倍に相当したのである。

右の如く、本件株式は独自の好材料がなかったにもかかわらず、頭書の期間において三井不動産の株式に比し、約二倍も株価が騰貴した。

(2) 同年一一月一三日より同月末日までの間の株価と取引高について

右期間中、後半七取引日における本件株式の取引高は、前半七取引日における取引高の四・八倍に急増し、また、株価は五七倍も急騰した。

これに対し、三井不動産株式は、前半に比し、後半の取引高は〇・七七倍と減少し、株価は一・〇二倍の微騰にすぎなかった。

(3) 三菱地所の本件時価発行は、同年一二月一日に発表された。そして、元来時価発行は株価にとり悪材料であり、仮にそうでないとしても、少なくとも同社の場合は、収益性に問題があり、事後のプレミアム還元が順調に進むものとは予測されず、好材料ではあり得なかったにもかかわらず、右発表の前後から発行価額値決めの日まで本件株式の活況が続いた。

(4) 昭和四七年一二月九日より翌四八年一月六日までの間の株価と取引高について

右期間中、本件株式は、前半一〇取引日に比し、後半一〇取引日の取引高は、八・五倍に急増し、株価は八・七倍も高騰した。

これに対し、三井不動産株式は、前半に比し、後半の取引高は〇・八四倍と減少し、株価も〇・九八倍と続落したが、これらは前記(2)の期間に比し、取引高において約三割減少し、株価も六・四パーセント反落したこととなり、値決め直前の本件株式の活況と全く対照的動向を示したのである。

(5) 由来、株式市場においては、人気が先に高値をつけ天井を形成するのが常識識であるところ、当時、特定銘柄で人気に優る本件株式が高値五四八円を記録した日が昭和四七年一二月二八日であるのに対して、逆に人気に劣る三井不動産株式が高値七八一円を示した日は同月一二日であり、前者に比して一六日も早いという異常現象を示した。これは、右両株式のいずれについても時価発行がなされたものの、発行価額決定日が三井不動産においては同月五日、三菱地所においては翌四八年一月一〇日であったことと関連符合している。

(6) 本件株式は、昭和四七年一二月二二日から翌四八年一月一〇日までの一二取引日において、一日平均三八三・九万株の取引を記録したが、これは、本件株式の昭和四七年度一日平均出来高二五六・四万株に比し約五〇パーセント増であり、また、株価も高値と安値の差が六七円(一三・九パーセント)に達し、その後、天井から四二円(八・七パーセント)も反落する等、活況裡に大幅騰落を演じた。

これに比し、右期間中、三井不動産株式は、一日平均二〇・四万株と昭和四七年度一日平均出来高三一・六万株に比し、逆に三五・五パーセント減の取引高を示し、株価の高値と安値との差は二〇円(二・七パーセント)で、天井からの反落も二〇円(二・七パーセント)にすぎず、同一株価を四回も記録し、平静そのものであったが、この間同業他社の株式も概ね沈静した動向を示したのであり、本件株式の動向と対照的であった。

なお、右期間中の三菱地所、三井不動産、及びその他の同業他社の株価の動向は、別表一のとおりであった(但し、日本経済新聞に掲載された前日の東京市場価格による)。

(二) その間の株価が本件時価発行における発行価額決定の基準となった昭和四七年一二月一〇日から翌四八年一月九日の一か月間において、いわゆる地場新聞である訴外株式市場新聞は、五回も本件株式の推奨記事を集中的に掲載した。

右推奨記事は、仮りに訴外株式市場新聞の独自の判断によって掲載されたものとしても、同新聞と訴外両証券会社との間における共存共栄・運命共同体的意識及び密接な取引関係で固く結ばれた癒着に基づき、本件時価発行の発行価額決定を訴外両証券会社に有利なものとするためにその掲載がなされたものと考えられる。

(三) 訴外両証券会社の相場操縦の動機

三菱地所は、昭和四七年まで株式の時価発行による増資を行わなかったが、同業他社が、三井不動産を筆頭に時価発行増資を繰り返したため、同年六月現在の資本勘定において資本金に対する剰余金の比率が同業他社に比し甚しく見劣りするに至り、昭和四八年一月に本件時価発行を行うことを決めた。

訴外両証券会社は、幹事証券会社として三菱地所を最高級の法人顧客とし、同社と密接不離の相互信頼関係にあったため、得意先である三菱地所の本件時価発行を歓迎し、その発行価額を、三菱地所の所要資金、発行株式数に見合い、かつ、三井不動産の幹事証券会社である訴外野村証券株式会社に対する熾烈な対抗意識から、三井不動産の時価発行価額より有利なものとするため、本件株式の相場操縦を行う動機を有した。

《以下事実省略》

理由

一  請求原因1の各事実は当事者間に争いがない。

二  次に請求原因2の訴外両証券会社の相場操縦の事実の有無について判断する。

1  右の点についての原告の主張は、要するに、訴外両証券会社の本件株式についての相場操縦として、訴外両証券会社が、①本件株式の売買取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的で本件株式につき仮装ないし馴合売買をし(証券取引法一二五条一項)、②本件株式の売買取引を誘引する目的で、その売買取引が繁盛であると誤解させ又はその相場を変動させるべき一連の売買取引をし(同条二項一号)、③本件株式の売買取引を誘引する目的で、訴外株式市場新聞に誇大宣伝的推奨記事を掲載させ(同条二項二、三号)、もって同条の禁止する相場操縦行為を行ったというにあるものと理解される。

2  しかし、原告は、右のうち、①、②については、その具体的な行為者名、行為の日時、態様等を何ら主張していないのであって、主張自体不十分というべきのみならず、《証拠省略》中の右主張に副う供述部分も具体性を欠き、かつ、主観的な推測を述べるにすぎないものであって、到底これを採用して、右原告主張の点を首肯させるに足るものとはなしえない。そして、他に右主張事実を認めるに足りる証拠もない。

3  また、原告主張の右③の点については、訴外株式市場新聞に、昭和四七年一二月中に本件株式に関する記事が数回にわたり掲載された事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、右記事は要するに本件株式の推奨記事であって、その掲載回数は五回であることが認められ、右認定を左右すべき証拠はない。

しかし、右記事の掲載が訴外両証券会社の相場操縦の一環をなしているとして、右両会社を問責すべきものとするためには、少なくとも、その掲載が右両会社の依頼又は指示に基づく等その意思の関与下になされたことを必要とする。しかるに、右の点に関する原告本人の供述部分も結局は推測の域を出ないのであって、右の点を首肯するに足りるものではない。その他本件全証拠によるも、右の点を認めることができず、結局右の点による相場操縦の事実も認めがたい。

4  そして、他に原告主張に係る相場操縦の点を肯認すべき資料はない。

5  もっとも、原告は、①本件株式の株価が三井不動産等同業他社の株式の株価に比し高騰し、かつ、右の株価と異なった変動をしたこと、②訴外株式市場新聞の前記推奨記事の掲載、③訴外両証券会社に本件株式の相場操縦をする動機があったこと等の事情を挙げつつ、これらのことから相場操縦の事実が推認できると主張している。

しかし、弁論の全趣旨によれば、一般に株価は、原告主張の如く、同一業種、同格の会社のものであっても、必ずしも同様な動きをするとは限らないのであって、当該会社の業績、資産、収益の状態、配当その他株主に対する対応の状況、発行済み株式数の多寡・浮動株の多少等当該株式の需給関係のほか、金融事情を含む株式あるいは債券市場の一般的・個別的動向、世界及び我が国における社会、政治、経済情勢等ばかりでなく、各種投資家の心理状況等々に至るまで、およそ万般の事象を織り込みつつ、これらに敏感に反応しながらその変動上下をするものであること、更に株式市場は訴外両証券会社にだけではなく、他の証券会社やその顧客にとっても、平等に公開されているものであることが明らかであるから、①原告主張の本件株価の変動状況とその同業他社との比較のみから直ちに原告主張に係る相場操縦なるものの存在を推定することもできず、②の前記新聞記事の掲載については、前述のとおり、訴外両証券会社との関連を認めることはできないのであるから、右掲載の事実から原告主張のような相場操縦が存したことを推認することもできず、③の訴外両証券会社に相場操縦をする動機があったとの点については、原告本人尋問の結果中に右主張に副う供述部分があるけれども、右は原告の推測を述べるにすぎず、的確な裏付け資料を伴わないものであるから、その主張に係る相場操縦の存在を首肯するに足りるものとして、これを採用することはできない。そして、他に右の点を認めるに足りる証拠はないから、結局右の各点から、原告主張のとおりの推認をすることも困難であって、ひっきょう、原告の前記主張は、これを是認するに十分な理由を伴うものとはなしがたい。

6  以上のとおり、訴外両証券会社による本件株式の相場操縦の事実が認められない以上、右事実の存在を前提とする原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

三  結論

よって、原告の本訴請求は、いずれもこれを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仙田富士夫 裁判官 清水篤 嶋原文雄)

<以下省略>

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